概要

本講義は、言語学における語用論 (Pragmatics) と呼ばれる分野を紹介し、ヒトの発話解釈にとって推論 (inference) が欠かせないことを主張するものである。発表の流れは以下の通りである。1. 古典的なコードモデルが意味解釈のモデルとして不適切であることを指摘し、語用論の成立過程と共に概観していく。2. 1を踏まえて、実例分析を紹介する。扱う現象は「この世には2種類のXしかいない、YかYでないかだ。」という言語パタン (e.g. この世には二種類の人間しかいない、俺か、俺意外だ) である。この構文を用いた発話はどの状況であっても論理的には常に正しいため、コードモデルでは情報量がゼロの発話 (i.e. トートロジー) 、すなわち無意味な発話だとみなされる。よって、この構文を用いた発話の意味・話者の意図を説明するには、話者の意図を推論することが欠かせない。