第5回 間主観性でとらえる「こころ」のハナシ――精神科デイケアの現場から

担当:近藤真帆

概要

第1回では心理学の簡単な歴史と現在の諸分野を概観し、

現在、大きく分けて量的研究と質的研究があること、

それぞれの利点や問題点を紹介しました。

今回は講義担当者のフィールド(精神科デイケア)における質的研究を紹介しながら、

研究の役割と問題について一緒に考えていきたいと思います。

 

担当者が依拠する「間主観性」を当てにする

質的研究法(エピソード記述法・語り合い法)は

たびたびその客観性/科学性が問われ、

時には「学問ではない」と言われることすらあります。

しかしフィールドにいると、

研究者の仮説、数値化可能な尺度からこぼれ落ちるデータ、つまり、

従来の科学的手法では拾えない重要なデータの存在がたくさんあることを痛感します。

私見では、そうしたデータを拾い上げ、

議論の場に持ってくることは研究者の仕事だと考えます。

 

講義では、特に質的研究法で実践を研究する必要性やその難しさ、

客観性/科学性の扱いに焦点を当てます。

心理学に興味がある方にもない方にも、科学や学問とは何なのか、

その役割は何か、といったことを考えるきっかけにしてもらえたら幸いです。

講義を終えて

今回の講義では、心理学の質的研究、さらにその中でもかなり独特な、

間主観性を導入する研究事例についてお話ししました。

精神科デイケアという現場の実相を見ていく時、

客観主義的な手法では何が分かり何が分からないのか、

間主観性を導入するとどのようなことが分かるのか、

実際のインタビュー記録を考察していく形で見ていきました。

受講生のみなさんに、普段馴染みのない現場の雰囲気や、

実際の研究のありかたが少しでも手応えを持って伝わっていたら、幸いです。

 

デイケアのありかた・研究と政策の問題は密接に関わっているため、

杉谷さんから政治学の立場で質問をいただきディスカッションができたことは、

大変刺激的でした。

受講生の方にも、立場の違いで物の見え方が全く違うこと、

そこで議論していくことの難しさや面白さを体感してもらえたように思います。

 

全2回の講義を通して、心理学という分野の歴史や問題、実際の研究のありかた、

物の見方のコントラストなどを見てきたつもりですが、

聴いていたみなさんの胸に、何かしら残るものがあったのなら、嬉しい限りです。

私としても、みなさんの前で講義をすることはとても貴重な経験となりました。

ありがとうございました。

アシスタントコメント

今回は参加者が少なかったが、講義が十分に整理されて分かりやすかったこともあり、

多くの学生が講義内容を理解し、当該分野に関心を持ったのではないかと思う。

質疑応答もかなり噛み合っており、質問者自身も学ぶところが多かった。

院生質疑の際は、あえてあるディシプリンを過剰に内面化した上で

質問をしてみた方がより差が際立って興味深いやりとりができると感じた。

ただし、誤解を招くような発言をしてしまわないように留意が必要。

 

学生からは、院生質疑にまつわる質問をいつもよりも多くもらい、

学生にとっても質疑が魅力的なやりとりになっていたことを示していたのではないだろうか。

講義のスライドも練られて作られている印象で、みやすく、頭に入りやすかった。

担当者の喋り方や口調が今回の講義内容に非常にマッチしており、

偏見や先入観を抱かせないような講義になっていたこともよかったと思う。

 

講義後の議論も盛り上がり、それぞれの分野において客観性がどのように扱われているか、

研究手法が明らかにできる因果関係の所在などが話し合われた。

分野は違えど、それぞれが似たような問題を抱えて多様なアプローチがとられていることが明らかになるなど、

実りが多い議論を展開することができた。

杉谷(政治学)