「公共政策」:決定プロセスの多様な見方

担当:安藤(公共政策学)

概要

 

国や自治体がつくる政策の背景には、様々な目的や意図があります。

その目的や意図には、もともと想定されていたものもあれば、政策を作ったり実施したりする途中で紛れ込んだものもあります。また、もともと想定されていた目的や意図が、いつの間にか見えにくくなることもあります。 

 

例えば保育所政策は、かつては経済的に厳しい家庭の親への就労支援に位置づけられがちでしたが、今やこの政策の目的は広がり、親がより豊かなキャリアを築くことの支援や少子化対策にもなっています。

政策を考えた人の立場や思い、社会経済情勢の変化、世論、政策を行う組織の在り方などが、同じ政策に対して想定される目的や意図を変容させたと言えるでしょう。 

 

このように、私たちの生活に密接な関係を持つ公共政策は時に柔軟な姿を見せます。

この講義ではこうした公共政策の一面に注目し、「時々捉えどころがないのだけれど、邪見にはできない隣人」として、公共政策を捉えてみたいと思います。 

講義を終えて

 今回の講義では、まず、実際の公共政策実施プロセスについて何となくイメージを持ってもらえるような話をしました。

 それから、公共政策ができるプロセスが様々なモデルを用いて説明できることをお伝えしました。

 そのうえで、どのような公共政策ができるかに影響を与える重要な観点(対象者や課題、規範など)があることを確認しました。最後に実際の政策事例を参考にしながら、できあがった公共政策を形作る重要な要素が何であったのか、考えてみました。

 

 私自身は、複雑でありながら柔軟なプロセスを経て成立し、現実に合わせながら変化しうる点に、政策の面白さを感じているのえすが、そんな面白さが少しでも伝われば良い、と思いました。

 

 併せて、やや背伸びした話に挑戦してみました。政策過程を学ぶことで社会に還元できることは何かということと、総人で政策過程を学ぶことの意義のようなものについてです。おそらく、今後こうしたことを意識することはますます必要になると感じているからです。

 

 話すのは緊張しましたが、日ごろゼミなど所属を同じくする人の間で発表することが多い私にとって、様々な分野に進もうとする学部生の方や、すでに様々な分野に進んでいる院生の方の前で話す経験は、とても新鮮でした。

 

アシスタントコメント

 公共政策学が「総人のミカタ」で扱われるのは今回で2期目になる (1期目は2017年前期:杉谷和哉氏)。今回の講義の独自な点を私なりにまとめると,以下の2点に集約されるように思う。

 

 ひとつめは,現場から出発した素朴な問いを学術的な問いに深めていく過程を概観できたこと,ふたつめは,どのようにして政策ができるのかを調べる方法として,審議会議事録を分析するというアプローチについて言及があったことだ。

 

 特に後者において,政策の背後には複数の規範が混在していることを,具体的な議事録の文言から明らかにしていくのは非常に刺激的で面白かった。

 ただし,取り上げた政策が「仕事と子育て」に関するものであったために,内容は具体的であるにもかかわらず受講者 (=学部生) にとってはそのイメージが沸きにくい,という「惜しい」状況になってしまっていた (講義後の検討会コメントより)。

 

 たとえば,「どうして大学の講義は90分×15コマなんだろう。その背後にはどんな規範が横たわっているのだろうか」といった,学部生にとって想像しやすい事例に対して同様のアプローチを行なうと,より理解が深まったのではないか。講師役をつとめる院生はもはや学部生ではなく,彼らの視点に本当の意味で立ち返ることはできないが (私の分野では,これを「発達の不可逆性」という),それでも,さまざまな方略によって両者の深い溝を埋めることは可能だろう。

 安藤氏が,次回はどのような手を打ってくるのか,早くも待ち遠しく思う。

 

萩原(発達科学・リハビリテーション)