第8回 どのようにしてλ-(BETS)_2FeCl_4は低温で反強磁性絶縁体転移するのか。そして、それの何が楽しいのか?他にどんな楽しいことがあるのか?

担当:瑞慶覧長空

概要

 

(注)以下に記す内容で講義を行う予定ですが、

一回目の講義を踏まえて内容の変更、追加、削減などする可能性があります。

一回目に参加して色々意見をください。

みなさんが必要としている内容を伝えられるよう努力します。(注おわり)

 

「磁性有機導体λ-(BETS)2FexGa1-xCl4はx=1の際低温で反強磁性転移し、その機構については未解明である。

フェルミ面がネスティングしていることによる伝導電子のSDW転移によって反強磁性転移が

生じているのではないかと考え、理論的に研究を行っている」

と聴くといまいち何が面白いのかわからないと思います。

私もそうでした。これは修士二年生である現在の私の研究テーマです。

 

一方第一回の講義で皆さんは、ブランコが加速していく仕組みが理解できました。

それは面白かったでしょうか。面白かったとしましょう。

今回の講義が終わった際には、上述した研究の内容もそれと同じように面白いと感じられるはずです。

 

研究の内容に加えて、どのような経緯を辿って研究が進んでいくのかについて、

具体的なエピソードとともに紹介します。

物理学に興味が無い方でも楽しめる回になると思います。

 

続いて、物理学においてまだ理解されていない事例を紹介します。

物理学を用いると、こんなわけわからんことまで考えることができるのか。

あるいはこんな単純なことがまだわかっていないのか、という実感を持ち、

あなたの専攻・研究テーマ選択の際の参考になれば幸いです。

 

最後に、前回講義の際集めた、

「総合人間学部でなにをするのか」について改めて紹介し、他者の意見を踏まえて、

また具体的な研究内容を踏まえて、再度議論をしてみたいと思います。

当然ですが、講義中の任意の時間から議論を始めてもらっても構いません。

むしろ歓迎します。

講義を終えて

一回目の講義でもらった指摘・コメントをなるべく反映させるよう努力した。

少しでも聞きやすくなっていれば嬉しい。

 

今回も前回同様、シラバスに記載した内容とは全く異なる講義内容となってしまった。

経験不足が原因だろう。研究の具体的な話を楽しみにしていた方には申し訳ない。

次のチャンスがあれば、今度こそ研究の内容を一般向けに伝えられる講義をしてみたい。

講義を終えてフィードバックなどをもらうと、

「もう一度するならこうしたい」というアイディアが色々と出てくるものだ。

負担は増えるが、総人のミカタの制度として一度院生の前で模擬授業を行い、

フィードバックを取り入れて学部生向けに本授業を行う、という形式にしても良いのかもな、とは思った。

負担は増えるが。

 

研究の内容まで届かなかったとはいえ、自分の分野の基礎的な知識について、

改めて初学者を対象に再構成することからは多くの学びがあった。

例えば、自分の理解が曖昧であったことが分かる。

あるいは、今まで素通りしていた面白さに気づくこともあった。

 

同時に初学者を対象に伝える内容を考えることはとても難しくもあった。

最も顕著なのは、自分が感じる楽しさを、講義を受けている側も感じるだろうと錯覚してしまうことだ。

今回の講義では板書で数式の説明を行っていたことに対応している。

あの部分を自分で計算し、理解していく行為は確かに楽しかった。

しかしあの内容をただ説明されることは楽しいだろうか?と考えると、楽しくないかもしれない、

暇と元気を持て余しているならまだしも、

少なくとも5限の時間に聴くには楽しくないかもしれない、と感じる。

自分が考えているときに感じる楽しさは、自分で考えているからこそ感じられるのであって、

他人に説明された場合は反応が質的に異なるのだと学んだ。

 

今回の講義の反省をまとめると「その思いやりが授業をダメにする」。

反省会の後の食事の最中にふと口から出た言葉である。

自分が感じた楽しさ、つまり理解を伝えるためには、これもあれも伝えておかないといけない。

ここまで話せばわかりやすいだろう、とか色々と考えて内容を増やしていくのだが、

受講者からすればただの計算だったわけである。

 

講義をするからにはどこまでも受講者の立場に立たねばならない。

「受講者の立場に立っている」と考えているその内容は、本当に受講者の求めているものだろうか?

と常に自分を疑ってかからねばならないという重要な学びを得た。

私の今後の人生に存分に活かされることだろう。

 

ただし、やっぱり計算の部分にも楽しさは見いだせるし、

そこに楽しさを見出す手助けをするというのも講義の重要な役割だと思う。

いつか、物理の講義をする機会があれば、面白い部分・重要な部分を喋る時間と、

その場で周りと相談したりしつつ自分で手を動かし演習をする時間を交互に取るような、

そういう講義を行ってみたいと思った。残念ながら物理の講義を行う予定は当面ないのだが。

 

追記:ブランコの解析結果について

講義ではブランコの漕ぎ方(重心の運動の方法)について、振動数が重要で、

上下運動のタイミング(重心の振動の位相)はブランコの振れ幅の拡大に対して重要ではない、と結論づけた。

しかし改めて考えてみると、そうでもないかもしれない。

 

講義ではブランコの振幅のみをプロットしていたが、同時に重心の運動もプロットしてみたところ、

適当な上下運動のタイミングで始めても、

ブランコの振れるタイミングに重心の運動のタイミングが追いつき、振幅が増え始める様子が見えた。

上述の文章では意味があまりわからないと思う。言葉で説明するのが難しい。

プログラムを公開するので、自分で色々と試してみて理解して欲しい。

とりあえず、codeはGitHub上(https://github.com/zchoku/buranko)で公開してある。

初心者なので使い方がよくわからない。誰か教えて欲しい。

 

講義後に、ブランコの振動を減衰させる漕ぎ方もあるのか?と質問された。

面白い問題だと思う。計算結果を見ていると、ありそうな気もする。ぜひ考えてみて欲しい。

 

また、プログラムの誤りなどを見つけた場合は、

zukeran.choku.75w@st.kyoto-u.ac.jp

まで連絡して欲しい。修正する。修正まで行って連絡してもらえるとさらに嬉しい。

またはプルリクエストを送ってほしい。

アシスタントコメント

物理学は全くの専門外だったので、話自体は新鮮で面白かった。

ただ、数式をひたすら解いていくパートは明らかに時間の掛け過ぎで、

学生も退屈しているようだったので工夫の余地がある。

物理学という学問の思考の型、何を明らかにするのか、ということがもう少し強調されてもよかったように思う。

ブランコの喩えは分かり易くてよかったと思う反面、いったん振り子の動態の話を入れるなど、

講義の内容が若干込み入っていたので、十分な整理が必要だと感じた。

スライドのデザインや導入はかなり洗練されていたので、自分も見習いたい。

分かり易い話をするために、分かりにくい前提を説明しないといけないという苦しさはよくわかるし、

全体的な課題だと言える。

杉谷(政治学)