移住と精神疾患:フランツ・ファノンの精神分析理論の形成

概要

 第1回目の講義では、フランツ・ファノンその名をフランス史に刻む契機となったアルジェリア独立革命に参加する直前の時期の精神医療の状況と実践を植民地精神医療史の文脈で説明しました。第2回目の講義では、この大枠の中で、ファノンがその医療実践で発展させる精神分析理論の形成と内容を考察していきます。
 既に故人となった人物の精神分析理論を考察するためには、第1回目の内容をベースにして、思想史、病跡学、社会学といった学問のアプローチを用いる必要があります。ファノンの精神分析理論の形成には、マルティニーク島出身のファノンが、フランス本国に渡ってから人種主義に出会った経験が深く関わりますし、自身の症状も含めてその精神的疎外からの解放を目指すのが彼の精神分析理論の課題にもなります。その理論が、アルジェリアでどのように編成、発展するのかも含めて検討していきたいと思います。

講義を終えて

 2回目の講義では、前回の講義内容へのさらに入門といった形式を取りました。初回では、私の専門である植民地精神医療史を題材に、具体的な研究進捗を紹介しながら講義を進めました。その名の如く、精神医療の歴史的な展開を植民地という政治的舞台において考察する植民地精神医療史は、その足跡を民衆レベル(人類学)、精神医療者(精神医療史)、精神医療制度(植民地史・精神医学史)の中で考察していく必要がありました。第1回目の講義から扱ってきた精神分析的関心を多分に有したフランツ・ファノンの精神医学についての学説を精神分析の系譜の中で思想史的に位置づけることを目標に、第2回目の講義の内容も組んだつもりです。フランス精神分析の潮流をフロイト からラカン、ウリらの制度療法までの展開の中でそれぞれ中身を検討しつつ、その中にファノンを入れ込みました。
 ややもすると、2回目の講義はフロイト時代からの精神分析の学説史紹介のような内容に見えたかもしれませんが、それを特定の人物を中心に纏めなおしてみると、案外新たな光があたるものです。文献研究は、1回目の講義のような人類学的フィールドワークと違って、泥臭く地道な精読を基本とする作業です。研究対象への誠実さ、という学問作業の根幹的部分は同じですが、過去を扱う場合は、それへの入門も導入も味けないかもしれないですね。でも、もし研究へとこのまま道を進める人が、いつか僕が据えた研究課題への解明のアプローチの組み方をもう一度思い出してくれて、その道の手がかり程度にでもしてくれたら嬉しいです。