第1回 「自殺」を「社会学」する

担当:真鍋公希

概要

さてみなさん、人はなぜ自殺をしてしまうのでしょうか。

「その人の個人的な事情で生きることが苦しくなり、あるいはその人が悲観的な性格だったせいで、

自らの意思で命を絶ってしまったのだろう」きっとこのように考える人が多いと思います。

この極めて個人的な行為にみえる「自殺」が、実は「社会」によっても規定されていると言うと、

みなさんはどう思いますか。

死刑や戦争によってもたらされる死や、交通事故のようなアクシデントならまだしも、

自ら選んだはずの「自殺」でさえ「社会」によって引き起こされると主張しているのですから、

これには違和感を覚えるのではないでしょうか。

 

「社会学」とは、人間のさまざまな行為を「社会」によって説明していく学問です。

人間は絶対にどこかの社会に所属していますから、その社会に知らないうちに拘束され、

その拘束のもとで行為を選択します。

だから社会学では、自殺のように個人が選んだように見える行為も、

実は社会の影響を受けた結果だと考えるのです。

 

今回は、フランスの社会学者E. デュルケーム(1858~1917)の自殺の分析を見ていくことで、

こうした社会学の基本となる「もののミカタ」を学んでみましょう!!

講義を終えて

反省と感想

総人のミカタ、記念すべき初回の授業を担当しました。来てくれた皆さんありがとうございました。

今回は社会学の古典の王道である『自殺論』の一部をテクストに沿って読み解きながら、

「社会学的な考え方を理解する」と「研究方法のポイントを知り体験する」という2点を、

講義の目標として掲げていました。

「研究方法のポイントを知り体験する」という観点では、

有名なプロテスタントとカトリックの自殺率の違いを引き起こす理由について、

2つの宗派の違いを資料に示したうえで、ペアワークでみなさんに実際に考えてもらいました。

この部分は比較的好評だったようで、アンケートでは

「他の人と意見交換でき、一方的な講義でないのが良かった」

「社会学の研究方法に触れられて、自分のやろうとしていることとは違うように思ったが、おもしろかった」という意見もいただけました。

 

一方で院生の反省会では、社会学的な考え方を示す序盤の抽象的な話の進め方、

全体的なペース配分や質問をした後のフォローの仕方、資料の不手際など、

改善点もたくさん指摘してもらいました。

これらの点は、メンバー間で共有して次回以降の講義に活かしていきたいと思います。

 

 

アンケートの質問への返答

「軍人が自殺しやすいのではなく、自殺しがちな人が軍人に長く居るのかもしれない」

個人の所与の性質として自殺傾向が高い人がいると仮定して、

そのような人が軍人になりやすいことは想定できますし、

軍人と市民とのあいだの自殺の差異を説明する仮説としては検討に値するでしょう。

しかしその場合、入隊当初から兵役年数が長くなるにつれて、

自殺しやすい人の内の何人かは実際に自殺をしてしまうので、

兵役年数が長い人の中には自殺傾向が相対的に低い人が残っていることになります。

また一般的に考えて、若い兵士の方が多いと考えられるので、

兵士全体に占める長い兵役年数の人数は少なくなっているといえるでしょう。

にもかかわらず、配布資料表7の1年未満と7-10年の自殺件数には2倍以上の差があります。

これは、所与の性質として自殺しやすい人が軍隊に長く残りやすいと考えるだけでは説明できません。

むしろ軍隊に長く所属し身につけた習慣によって、自殺しやすくなっていくと考える方が妥当でしょう。

 

したがって、兵役年数の高い兵士に自殺が多いのは、

軍隊の没個性的・集団主義的な性格を強く身につけたがためにおこる自殺、

すなわち集団本位的自殺の1ケースとして理解できるのです。