公共政策と価値

概要

 日常生活を送るなかで、「この人とは考えが違うな」と、他人との価値観の相違に気づくことはよくあることだと思います。ただ、それが私的な趣味や嗜好の話であれば、価値観が違ってもそれほど深刻な対立にはならないということも多いでしょう。「人それぞれ」で話が済むこともまた、よくあることだからです。
 しかし、価値観の相違を「人それぞれ」で済ませておくことができない場合もあります。本講義の主題である公共政策学は、公共問題の解決策の探求に主眼を置いた学問ですが、取り扱う問題の多くは、人それぞれで済ませておくことができない問題です。それゆえ、公共政策を論じる上で、価値の問題は無視できない重要性を持ちます。そして、この価値の問題に取り組むディシプリンとして、本講義のもう一つの主題である政治理論があります。
 本講義の関心は、自由や平等、安全といった、一見誰もが望ましいと感じる価値の衝突をどのように理解するか、そしてそれに対してわたしたちがどのように振る舞うかというところにあります。
そこで1回目の講義では、これらの価値の検討を通して、公共政策を論ずるとき、あるいは研究するときに、価値に注目することがなぜ重要なのかというところから考えたいと思います。