第8回 選挙と政策決定II

担当:杉谷和哉

概要

前回の講義では、政治の難しさをお伝えしました。

投票に行かないと私たちの意見は伝わらない。

かといって、投票に行ったとしても満足のいく結果が得られるとは限らない。

政治とはとても難しいものなのです。

今回の講義は、そのような前提を踏まえた上で、政治学が何を考えてきたか、

このような政治の難しさとどう向き合ってきたかについてお話ししたいと思います。

 

ところで、政治学を勉強している、というと、「政治家になりたいの?」と訊かれることがあります。

このような話は、この頃は減ったと言われていますが、

確かに、なぜ政治について学ぶのかという疑問は常に存在しています。

政治学は、政治家になりたくない人、あるいは政治と関わりたくない人にとって、

無関係なものなのでしょうか。

 

今回の講義では、政治学が考えてきたことを伝えることによって、

私たちが生きる中で関わっていく政治の問題とどう向き合うべきかについてお教えしたいと思います。

また、この政治学とも非常に深い関係がある公共政策学に関しても、今回の授業でお話しします。

政治学と公共政策学がどう違うのか、これ自体実はすごく難しい問題なのですが、

皆さんが今後、学問の世界に飛び込もうとする時に参考になる、

ざっくりとした地図をお渡しできればと考えています。

講義を終えて

今回の講義は、前回で説明した政治の難しさを踏まえたうえで、

政治学が現実の政治の問題とどう向き合ってきたかについて話しました。

学問が社会にいかに関わるべきかという問題は、非常に深く、答えがでないものです。

日本では、1990年代、政治学が現実政治の改革に大きな役割を果たしましたが、

結果だけを見れば、政治改革の結果は芳しくないものになっています。

しかし、政治学は既に新しいアプローチから、

現実政治を改革しようという試みを展開しています。

その試みに終わりがくることはないでしょう。

政治学は決して「政治家になりたい人」や、

「政治に特に関心がある」といった一部の人たちのみのための学問ではないのです。

 

反省会では、発表のスライドの内容や、喋るスピードなどについて

アドバイスをいただきました。今後に活かしていきたいと思います。

学生からのご意見に答えます。

 

「リベラル」の定義について

今回の講義では、保守派が伝統を重視するのに対して、

リベラル派は人間の理性を重んじている、とごく簡単に説明しました。

リベラルが理性を重んじている、というテーゼに違和感をおぼえた方がいらっしゃいました。

補足しておくと、このことは決して、保守派が理性を軽視して、

学問的な営みに携わってきていないということを意味しているのではありません。

根源的な部分では、これは人間観に関わってくるものです。

 

保守派は、人間ができること、人間という存在そのものは限界を内包していると考えます。

このことから、人間が理性を行使して何もかもを思い通りにできる、という発想を批判します。

人間が伝統を軽んじ、理性のみで社会をつくろうとした結果が、

フランス革命後の混乱であり、社会主義の悲劇だった、と彼らは考えます。

このようなことを踏まえ、人間の理性よりも、

長い間続いてきた伝統や文化といったものの方が重要で、価値があるものだとし、

それらを大切にすべきだ、と主張するのが保守と言われる立場の人たちです。

 

これに対してリベラル派は、人権や平等といった普遍的な価値を大切だと考えます。

それらは、人間が理性を行使することによって生まれる考えです。

リベラル派は、伝統や文化といったものに人間を抑圧する側面があることを指摘します。

そして、人間は理性をもって世界をいい方向に導くことができると考えています。

 

これら二つの考え方には、それぞれいい面もあれば悪い面もあります。

どちらの立場をとるかは皆さんの自由です。

それぞれの立場から書かれた優れた政治学の本もあります。

そういったものを読む中で、自分がどのような立ち位置にいるべきか、

ということを考えてみてもいいかもしれません。

 

ある意見で、リベラルは「外国が好きなだけ」ではないかというものがありました。

確かに、一部のリベラル派の意見の中にはそのように映るものもあるかもしれません。

ただ、思想や立場を考える上で重要なのは表層的な意見や言説のみに捕らわれるのではなく、

それらの根底にある人間観、世界観をしっかりと掴むことにあります。

一部の言説に拘泥して、実感や自分が知りうる狭い世界のみで臆断することは、

人や思想を判断する上で好ましいことではありません。

どのような立場をとるにせよ、

その発言の奥底にある発想や信条について思いを馳せることが重要なのです。

 

政治的な対立においては、これらの信条は重要な意味をもちます。

本当の争点はどこにあるのか、何が今、問題になっているのかといったことは、

上述した粘り強い思索と考察を経なければ分かりません。

政治学もこういった問題を常に考えてきた学問の一つであり、

学問とは、世界を見る枠組み=世界観を私たちに与えるという重要な役割も担っているのです。